熊本機能病院に人工関節センターを併設して10年になります。
もちろん人工関節形成術は昭和57年の熊本機能病院開設以来ずっと行っていましたので、すでに27年以上の歴史があります。人工関節センターとすることでチームとしてのまとまりができました。症例毎に術前術後の検討を行い、その人に最適な手術進入路と機種を選択するようになりました。リハビリの方法や退院の時期についても一人一人の状況によってグループで決定するようにしました。術後の成績を評価し、次の手術のための目標が設定できるようになりました。
しかし、医療の進歩が著しいように人工関節に関しても日々進歩しています。
熊本機能病院人工関節センターのスタッフが一丸となって努力していきたいと考えています。
二足起立歩行動物(=人間)の宿命
| そもそも人工関節形成術は人間が四足での移動から二足起立歩行ヘ進化した事によって、脊椎のみならず下肢関節に多くの弱点(変性変化)を生じる事になり、その結果として腰痛のみならず下肢関節の「痛みとの宿命的な戦い」の結果始まったものです。
正常の関節が痛みなく曲げ伸ばしが出来るのは関節軟骨がある程度の厚みと弾力性を有し、関節を支える靭帯や関節包によって前後や側方への安定性が確保されているからです。二足での起立歩行はこの関節軟骨の変性を進行させ、関節周辺の靭帯に大きな負担を強いています。変形性関節症や関節リウマチ、大腿骨骨頭壊死(えし)などの病気によって、その関節軟骨や靭帯の機能に障害が起こると、関節の痛みと運動制限が出現します。特に体重を支える股関節や膝関節にこのような病変が生じるとなかなかお薬や注射によって改善する事が困難になります。 |
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二足起立歩行動物(=人間)の宿命
痛みが強く歩くのも辛い、下着の着脱や足の爪きりが困難であるといった日常の生活に大きな支障が出ている方々に対しての治療法として考案された、人工関節形成術は日常生活を画期的に改善する素晴らしい手術法といえます。
熊本機能病院人工関節センターでは主に膝関節と股関節に対する人工関節形成術を行っています。ここでは、出来得る限り耐用性のある人工関節の材料を用い、手術キズも小さく身体に優しい手術方法に努めています。
◎(症例)人工膝関節形成術症例
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| 磨耗変性した膝関節内の状態です。 |
関節軟骨面を切除して人工関節を設置しました。 |
当センターの考え Q&A
人工関節手術はどのような人が対象になるのですか。

変形性関節症、リウマチ性関節症、大腿骨骨頭壊死、外傷性関節症などによって関節機能が非常に障害された人がこの手術の適応となります。
手術の時期は、いつするのが適当でしょうか。
人工関節の手術時期に関して、手遅れの時期というものはありません。人工関節以外に治療方法が無く、しかも痛みや、可動域の制限のために、日常生活や仕事に支障がある末期関節症の患者さんに人工関節手術が良い適応になります。
手術をする時期は、患者さん自身が、日常生活が非常に不自由で仕事もできない、楽しみもない、もっと生きがいのある生活をしたいとお考えになった時に手術をすればよいと思います。レントゲン写真でどんなに悪くても痛みが軽い人もいます・レントゲン写真の状態だけで手術の時期を決めることはできません。家庭、会社などの都合に合せて決める方が安心して手術を受けることができます。家族や会社、いろんな人の十分な理解が大事です。ただ、いたずらに手術が怖いからといって逃げてばかりいるのは賢明ではないと思います。最近は麻酔法も進歩しており術中の不安も少なく、手術後の痛みもさほど出ないように工夫して行われています。
手術の時期は一応60歳以降としていますが、障害の程度が優先され、年齢による適応の時期はあまり考えないほうが良いのでないかと考えます。40歳代であっても、80歳代であっても、手術の時期はその人の生活を中心に考えたいと思います。その年代に合った人生の楽しみが関節の痛みや動きの制限のために出来ないのであれば私は手術の決断を勧めます。
人工関節術後のリハビリテーションについて教えてください。
人工関節の術後、ベッド上でじっと寝ていることはありません。入院したら直ぐにリハビリが開始されると考えられます。入院時にリハセンターで術前評価を行い、術後に必要となる訓練方法を指導いたします。さらに看護師はベッド上での生活指導を行います。術後のリハビリテーションは手術翌日には開始いたします。
全身状態が許す限り,ベッド上で寝たままの生活は出来るだけ避けたいと考えています。可能な限り早く、座位、起立、歩行へとリハビリをすすめていきます。すべての病棟でクリニカルパス(治療計画表)を作成しています。それによって退院の時期もだいたい決定されています。パスの使用によって、治療法のばらつきを少なくしていますが、個人個人の状態によってもパスは適切に運用されていきます。医師、看護師、理学療法士、ケースワーカー、管理栄養士、薬剤師が各々の知識を集約して治療を行うチーム医療を実践しています。
麻酔法について教えてください。
手術はすべて麻酔専門医による全身麻酔のもとに行います。手術の前日に麻酔医と手術室看護師による手術室に入るまでの注意事項の説明と麻酔の危険度のチェックを行います。その際、患者さんの麻酔に対する希望もお聞きします。術中はもちろん術後の痛みを出来るだけ和らげる為、腰から硬膜外チューブを挿入します。麻酔導入時の注意事項は他の手術とほとんど同様です。別に説明文書がありますので十分にお目をお通しください。
平成17年4月1日手術室は改装しました。手術室は8室あります。そのうち人工関節手術専用の手術室として2室あり、特殊な空調設備(バイオクリーンルームと言います)がなされています。非常に明るく、従来の手術室のイメージを一変させました。手術室には歩ける人は歩いて入室するようにしました。これは、患者誤認防止などの理由からです。以前は病棟で行われていた麻酔のための前投薬の注射と抗生物質の静脈内注射は手術室に入られた後に行います。
手術に輸血は必要でしょうか。
自己血による手術を原則としています。手術の予定が立ったら3週間位前から自己血を貯めるようにしています。これを自己血貯血といいます。一応1000ml貯める事を目標にしていますが、貯血される方の健康状態によってその量には差があります。特に70歳以上の方や、貧血が強い人には貯血することで健康に悪い影響が考えられる事もありますので慎重に貯血量を決定します。心臓病や悪性腫瘍がある人などには貯血を行いません。貯血された血液は厳重に冷蔵庫にて保管されます。手術時あるいは術後に全身状態を観察しながら貯血された血液を戻す事になります。これを自己血輸血といいます。ほとんどの場合貯血量で十分ですが、時には不足することがあり、その場合は日赤血液センターの保存血を使用いたします。
一人暮らしで心配ですが、付き添いは必要ですか。手術の費用も心配です。
入院に際し付き添いをお願いする事はありません。医療や看護・介護の面で必要なことはすべて職員が行います。ただ手術する前にいろいろな説明を行い、ご了解していただきたいことがありますので誰か本人以外の人(保証人となっていただく人)においでいただくことがあります。入院中の衣服の洗濯などでは自分で出来るようになるまでどなたかにお願いいたします。入院・手術と言うものは誰にとっても大きなストレスとなります。特に入院の経験がなかったり、ベッドで休むことが初めての人にとっての入院生活は非常に大きなストレスになることが予想されます。ことに高齢の人が手術を受けた後に、全身麻酔の影響や脳や心臓への一時的血流障害の影響によって精神的に不安定な状態になることがあります。人によっては記憶が朦朧となったり、自分の意志で行動が出来なくなる人もいます。ほとんどの場合リハビリを開始することで精神的安定は得られ元通りになりますが、家族の方々の精神的支えが非常に重要です。そのような精神的慰安を目的に術後数日お泊りになることは構いません。
手術前には気付いていなかった病気、例えばパーキンソン氏病などいろいろな病気が手術後に悪化することもあります。手術による種々の合併症が発生すると、高齢の人では若年者に比べ回復能力が低いために、回復がかなり遅れるばかりでなく、完全に回復しないこともあります。その結果として、一人暮らしが困難になることもあります。
当院には術前、入院中、退院後の生活面での不安がおありの方に対する相談窓口として、メディカル・ソーシャルワーカー(社会福祉士)がいます。高額療養費に対する書類の提出方法や更正医療、介護保険、身体障害者手帳申請などの手続きのお手伝いや助言をしています。お気兼ねなくご相談ください。
人工関節は長くもてないと聞きました。再手術(再置換術)が必要となる主な原因は何ですか。
人工関節には宿命的な弱点があります。それは人工関節の可動する部分での磨耗と人工関節と生体(骨)を固定している部分でのゆるみです。再手術になる最も多い原因はこの人工関節のゆるみと磨耗です。人工関節には優れた素材が用いられ、また、骨との固着方法の改善によって、比較的若い人たち(30代〜40代)が、手術を受けられても、早期に再手術に至ることは少なくなっています。しかし、人工関節の術後20年以上を経過しますとやはり関節面の磨耗が生じてきます。骨との間のゆるみも起きてきています。さらに何度も転倒したり、階段から落ちるなどの大きな衝撃が幾度も繰り返し加わった場合は、人工関節の磨耗・破損や人工関節がゆるみが早まることも考えられます。水道の蛇口も扱い方が荒いと早くパッキンが壊れ、水漏れが起こります。これと同じように、人工関節も大事に扱うことが必要です。人工関節の磨耗や緩みは当初、症状は何も出ないことがほとんどです。その他、繰り返される脱臼や感染が再手術の原因になることもあります。
人工関節の磨耗や緩みの初期に再手術する方が大きな手術にならなくて済むことも少なくありません。定期的にレントゲンによるチェックは磨耗やゆるみが生じていないかを観察しているのです。手術後1年間は少なくとも2ヶ月に一回、その後は6ヶ月毎に、10年後も1年毎には病院を受診して欲しいと思います。定期検診以外の時でも、どこかいつもと違う痛みを感じたり、変な音がするなどの異常を感じたらすぐに担当医にご相談ください。
いずれにしろ再手術は出血量も多く、技術的にも手術が難しくなり、リハビリテーションも長くなる可能性があります。再手術を避ける為の日常からの工夫や心がけが必要です。
骨を移植することが多いと聞きます。どうしてでしょうか。
日本人の股関節症は骨盤のかぶりが小さいために起こってくる臼蓋形成不全を伴った関節症がほとんどです。その場合、大腿骨の頭の部分は外側上方にずり上がっています。手術でもともとあるべき骨盤に人工関節のソケットを装着しようとすると大きな骨欠損が生じます。そこで、摘出した大腿骨骨頭の部分を利用して骨移植することになります。その他、臼蓋の底の部分や後の部分の骨が不足することもありますのでその部分にも骨移植を行います。骨移植の範囲が広ければ、術後早期に体重を負荷することが出来なくなります。術後のリハビリにいくらか遅れが出る事も止むを得ません。
再置換術の場合は人工関節のゆるみによる場合が多いので骨の欠損がもっと多くなります。臼蓋の部分だけではなくて、大腿骨の方にも骨移植が必要になることがほとんどです。この場合、その人の骨を利用する事が出来ませんので他人の骨を移植することになります。これを同種骨移植といいます。同種骨は無菌状態で保存され、免疫原性(拒絶反応)も非常に少なく自分の骨(自家骨といいます)とほぼ同等の骨組織を誘導する能力があると言われています。しかし、現状ではこの同種骨が不足傾向にあります。同種骨で足らない部分は人工骨を利用します。
以上のように人工関節形成術には骨移植術が重要な要素となっています。
自分の骨が足らないときはどうするのですか。
自分の骨が使えないときは冷凍保存されている他人の骨を使うことになります。これを同種骨移植といいます。特に人工関節の再置換術では先に述べたように骨欠損が大きく、同種骨移植を必要とする症例が増えています。海外では当然のごとく行われている死者からの骨の提供が日本ではほとんど行われておりません。たとえ骨の提供の申し出があったとしても、それを受け入れる組織はまだ十分に確立していない状態です。そのような情況にある中で、平成17年7月NPO法人熊本県骨バンク協会が認可されました。熊本県骨バンク協会はドナーからの篤志による骨の提供を受けて、適切に処理(無菌的)した同種骨を、必要としている人々に安定的に供給し、人々の健康及び移植医療の発展に寄与する事を基本方針として設立されました。死者からのみならず、手術の一環として摘出され不要となった骨組織についても、それを必要とする患者さんの手術に使用する目的で提供していただきたくお願いいたします。
事務局は熊本機能病院内(℡096-345-8111)にあります。熊本県骨バンク協会の活動にも皆様のご理解とご協力をお願いいたします。
小さな手術のキズで早く退院ができるという最小侵襲手術(MIS)というものを聞きましたが。
人工関節手術の手術は以前は20cm〜25cmぐらいのキズが膝の正面や大腿部の外側に残っていました。以前は確実な手術を行うにはそれぐらいが皮膚切開を必要としていました。最近では手術器具の改良や手術手技の工夫により10cm前後の皮膚切開で手術も可能になりました。皮膚切開が小さい事により、術後の痛みも少なくなっています。術後の筋力の回復も早いようです。しかし、すべての人にこの小さい皮膚切開で手術が出来るとは考えていません。股関節や全身状態に合わせ手術方法は変わります。手術の基本はやはり確実性が最も重要です。関節への進入路は当院では前外側法が約半数、後外側法が約半数です。

前外側法で行っているところです。
ソケットを骨盤に挿入しています。

ステムを大腿骨に挿入する為に骨髄を掘っています。
最後に熊本機能病院人工関節センターの特色を。
手術は「安全にして確実であること」をモットウに行っています。しかし、いくら手術のキズが小さくなっても、手術時間が短くなっても、この人工関節形成術という手術が決して小さいものでないことを頭の中に入れておくべきと考えています。術後の出血や神経麻痺、最近、話題となっている深部静脈血栓症から発生する肺梗塞などの予防に絶えず緊張感をもっています。これらの合併症を予防するには手術を受けられる方々のご理解とご協力が不可欠であり、私たちは手術前に必ず「人工関節手術を受けられる前に、患者さんと家族の方へ」という小冊子をお渡しし、読んでいただくことにしています。
術後のリハビリはクリニカルパスに基づいて進めていますが、個体差を最も大事にしてケアいたします。当院は一般急性期病棟と回復期リハビリテーション病棟を併設していますので、退院後の生活に安全であると確認できるまでリハビリを行っています。そのようなことで退院の時期は術後4週から6週ぐらいになることが現状で多いようです。
実績・人工関節の手術件数
平成19年1月〜12月
| |
手術件数 |
手術時年齢 |
男性件数 |
平均年齢 |
女性件数 |
平均年齢 |
| 人工股関節形成術 |
163 |
63.69 |
35 |
61.32 |
133 |
64.23 |
| 人工股関節再置換術 |
16 |
72.06 |
5 |
73.48 |
11 |
71.41 |
| 人工膝関節形成術 |
189 |
74.33 |
25 |
75.61 |
164 |
74.13 |
| 人工膝関節再置換術 |
3 |
80.05 |
0 |
|
3 |
80.05 |
| 計 |
371 |
|
60 |
|
311 |
|
| 人工骨頭置換術 |
47 |
82.99 |
7 |
81.63 |
40 |
83.23 |
人工関節センターのスタッフは次のメンバーで手術を行い、リハビリを行っています。
医師:中根惟武、高橋修一朗、久保田晃志、石井孝子、清田克彦、高橋知幹、その他、専属の理学療法士、作業療法士および看護スタッフがいます。
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